2013年4月30日火曜日

産経新聞:「飲み続けていいのか」 不安の患者に臨床現場は怒り

【降圧剤データ操作】
「飲み続けていいのか」 不安の患者に臨床現場は怒り




2013.7.13 01:03 (1/3ページ)
ノバルティス社の高血圧薬「ディオバン」
ノバルティス社の高血圧薬「ディオバン」
 製薬会社「ノバルティスファーマ」(東京)が販売する高血圧治療の降圧剤「ディオバン」(一般名・バルサルタン)の臨床研究で不正なデータ操作があったとした京都府立医大の調査結果を受け、田村憲久厚生労働相は12日、私的諮問機関として臨床研究の不正防止策を検討する委員会を近く設置することを決めた。日本の臨床研究の信頼性を揺るがす今回の事態。進展次第では、医療技術を世界に売り出そうとしている日本の成長戦略にも大きな影を落としそうだ。
独自調査に限界
 高血圧症の患者は血管を流れる血液の圧力が高くなることで血管が傷み、脳卒中や心筋梗塞などの虚血性心疾患になりやすい。厚労省によると、国内の高血圧症の推定患者数は平成23年で約900万人。心臓病と脳卒中は日本人の死因の上位を占めている。
 ディオバンは約100カ国で承認され、ピーク時には世界で6千億円以上の売り上げを記録するなど世界でも一般的な降圧剤。京都府立医大の松原弘明元教授(56)の患者3千人を対象にした臨床研究の論文は、ディオバンが降圧効果だけでなく、他の薬に比べ脳卒中や虚血性心疾患を45%減らせる効果がある-という画期的な内容だった。


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ノバルティス社の高血圧薬「ディオバン」
ノバルティス社の高血圧薬「ディオバン」
 しかし府立医大の調査結果は患者の期待を裏切るものだった。問題の柱は、ノ社の社員(当時)が臨床研究のデータを分析した▽ディオバンが有利となる不正なデータ操作が行われた-というもの。論文には分析担当として、ノ社元社員が大阪市立大非常勤講師の肩書で掲載されたが、ノ社の所属は隠されていた。
 日本循環器学会は12日、「臨床研究の信頼性を揺るがす事態で、深く憂慮せざるを得ない」と批判する見解を公表。研究を実施した府立医大とノ社に詳しい調査と再発防止を求めた。
 ただ、実態解明の鍵を握る元社員は今年5月にノ社を退社、府立医大や大阪市立大の事情聴取は拒否しており、独自調査には限界があるとみられている。
成長戦略に影も
 政府も危機感を抱く。田村厚労相は12日、「革新的な医療技術の実用化を進める中、取り組みの前提となる臨床研究でこのような問題が起こったことは大変遺憾」との談話を発表。再発防止に本格的に乗り出す姿勢を示した。
 医薬品の開発は安倍晋三首相の成長戦略に盛り込まれた重要な柱の一つ。政府が6月に閣議決定した「日本再興戦略」では、革新的な医薬品や医療技術を世界に先駆け実用化し、世界初承認を目指すとされた。


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ノバルティス社の高血圧薬「ディオバン」
ノバルティス社の高血圧薬「ディオバン」
 「不正の影響は大きい。日本での研究は費用はかかるが質は高いというのが世界での評判。しかし、今回の一件は日本の信頼を一気におとしめかねない」。厚労省の担当者はそう嘆く。
 厚労省は、文部科学省と進めている、臨床研究を実施する際の倫理指針の見直し作業の中でもデータ操作問題を検討。臨床研究データの質をどう保証するか、さらに議論を続ける。
残り4大学も…
 府立医大と同様の研究を行っていた4大学は、対応に追われている。
 英医学誌に掲載された論文で問題を指摘された東京慈恵医大は調査委員会で調査しており、「まとまり次第報告する」という。滋賀医科大も5月末に調査を開始。論文にノ社の元社員と思われる名前が大阪市立大の肩書で記載されているといい、「恣意(しい)的なデータ操作が確認されれば研究に関わった教授や大学の威信に関わる問題。詳細を調査する必要がある」とした。
 「これまでの調査では執筆者に元社員は確認されなかったが、論文作成の過程で関与した可能性も残る」というのは名古屋大。千葉大は「調査中で詳細は答えられない」としている。
 臨床現場からも憤りの声があがる。東京都千代田区のクリニック「四谷メディカルキューブ」で高血圧の患者などを診療する加藤辰也副院長(61)は「患者から『飲み続けていいのか』という問い合わせが来ている。降圧効果は確かだが、この状態だと今後は『薬を変えて』という声も出るだろう」と指摘した。
【用語解説】ディオバン
 せきなどの副作用が少ないとされる降圧剤「アンジオテンシンII受容体拮抗(きっこう)薬(ARB)」の一つ。体内物質「アンジオテンシンII」を抑えて血管を広げ、水分や電解質を調整し、血圧を下げる。国内ではノバルティスファーマが販売し、平成24年には1083億円を売り上げた。

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