2013年4月30日火曜日

産経新聞:効果捏造の論文で降圧薬宣伝

【家庭医が教える病気のはなし】
(14)効果捏造の論文で降圧薬宣伝


2013.7.16 08:05 (1/2ページ)
 高血圧の薬にはさまざまな種類があり、値段は高いものから安いものまでいろいろだということをお示ししました。高い薬ほど日常生活に与える影響は大きいでしょう。安い薬を選べばその影響を小さくできます。その安くなった分でちょっとリッチな外食だって可能になるかもしれません。今日も続きのお話です。
 しかし、この値段の違いはいったい何で決まっているのでしょうか。端的に言えば、薬の値段は古いか新しいかで決まっています。最も古い利尿薬が最も安く、最も新しいアンジオテンシン受容体拮抗(きっこう)薬が最も高いのです。脳卒中などの予防効果でいうと、値段はほとんど関係ありません。どの薬もほぼ同じ効果であることが多くの研究で示されています。効果が同じなら安い薬を選ぶのが当然でしょう。
 しかし、現実は違います。高血圧の薬で断トツによく使われているのが、最も値段が高いアンジオテンシン受容体拮抗薬で、最初に使われる薬の50%以上を占めるという報告があります。これはどういうことでしょうか。
 これには日本人を対象にした2つの研究論文が影響しています。この2つの論文では、高血圧患者を対象に、一方はアンジオテンシン受容体拮抗薬の一つであるディオバンという薬を、もう一方にはそれ以外の薬を投与して合併症の発生を比較しているのですが、どちらの研究もディオバンのグループで合併症が40~50%少ないというのです。

2013.7.16 08:05 (2/2ページ)
 この2つの論文結果を使って大々的な宣伝が行われ、ディオバンは最も使われる降圧薬の地位を獲得したわけです。これが本当であれば問題ありません。値段が高くても40%も合併症が少ないのであれば、まずこの薬から使おうというのは当然でしょう。しかし、「アンジオテンシン受容体拮抗薬が他の降圧薬より効果が高い」という報告はこの2つの研究以外にほとんどなく、他の報告は「効果がほぼ同じ」という結果です。
 そこへ、この2つの論文の捏造(ねつぞう)疑惑が持ち上がりました。このうちの一つは論文自体が取り下げとなり、著者は大学教授の立場を辞任。大学は「明らかなデータ操作があった」とする調査結果を公表した。
 日本において最も使われている高血圧の薬の宣伝に使われた論文は捏造が明らかになり、多くの患者さんが値段が高いだけで他の薬と効果が変わらない薬を飲まされ続けていたという大事件です。しばらくはこの問題について取り上げていきたいと思います。(武蔵国分寺公園クリニック院長 名郷直樹)

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