2013年4月30日火曜日

毎日新聞: 社説:降圧剤試験不正 第三者機関で解明せよ

社説:降圧剤試験不正 第三者機関で解明せよ

毎日新聞 2013年07月13日 02時30分
 日本の臨床医学研究の信頼性を根底から損なう深刻な事態だ。
 京都府立医大チームによる降圧剤バルサルタンの臨床試験論文について、同医大は、血圧を下げる以外の効果が出るよう「解析データが操作されていた」と発表した。販売元の製薬会社ノバルティスファーマ(東京)の社員(既に退職)がデータ解析していたという。製薬社員が関与した論文が、薬の売れ行きに有利になる形で操作されていたのだ。まるで詐欺のような話ではないか。
 データ操作はどのような経緯でなされたのか。ノ社は意図的な改ざんを否定するが、組織的な関与はなかったのか。大学の任意調査には限界があり、第三者機関による徹底した究明作業を求めたい。
 問題の論文は2009年に発表され、バルサルタンが他の降圧剤より脳卒中や狭心症を減らす効果があると結論づけた。ノ社は論文を宣伝に使い、バルサルタンは年間1000億円以上を売り上げている。だが、データ解析に重大な問題があるなどとして、この論文や関連論文が今年2月までに撤回されていた。
 一方で、研究責任者を務めた元教授側にノ社から1億円の奨学寄付金が提供されていたことが判明。社員は同様の試験をした慈恵医大など他の4大学のデータ解析などにもかかわったが、論文ではいずれもノ社所属を明らかにしていなかった。元教授は不正を否定し、社員は府立医大の聴取には応じていない。
 患者は医師の処方を信じて薬を飲む。薬効のごまかしは許されない。
 製薬会社は有名医師や臨床試験の結果を広告や宣伝活動に使い、医師もそれに安住してきた。問題の背後には、こうした医学界と製薬会社の癒着関係があったのではないか。
 日本は医学系研究費の多くを製薬会社など民間に頼っている。産学連携は必要だが、公的な研究成果が社会から信頼されるためには、資金提供元などの情報開示による透明性の確保が重要だ。
 米国では、医師に支払う10ドル以上の全ての対価を政府に報告するよう企業に義務付けている。日本も、日本医学会が11年に策定した指針で、論文や学会発表の際に研究費の提供元を明示するよう求めた。日本製薬工業協会も資金提供を公表する指針を今春施行したが、自主規制にとどまる。
 米科学誌に昨年発表された報告では、「捏造(ねつぞう)かその疑い」で撤回された生物医学や生命科学分野の論文数で、日本は米独に続き3位だった。安倍晋三首相は、医療分野を成長戦略の柱に据えるが、国や医学界が連携してバルサルタン問題の再発防止に努めなければ、日本発の医療に対する世界の信用は得られまい。

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