2013年7月4日木曜日

西日本新聞: 降圧剤情報操作 不正防止の対策が急務だ

降圧剤情報操作 不正防止の対策が急務だ

2013年08月07日(最終更新 2013年08月07日 10時35分)

製薬会社のノバルティスファーマ(東京)が販売する降圧剤に、脳卒中や狭心症の予防効果もある-。東京慈恵医大がこう結論付けた臨床研究で血圧値のデータに人為的な操作が行われていたことが判明した。同大の調査委員会が中間報告で公表し、データ解析担当のノ社元社員が操作に関与した可能性を指摘した。
 研究責任者の客員教授は英医学誌に掲載された論文の撤回を表明した。京都府立医大に続くデータ操作の問題である。
 降圧剤の血圧を下げる効果自体は問題ないとされることから、患者に危険が及んだわけではない。しかし、誤った情報で患者が薬を処方された可能性は否定できない。患者への背信行為であるとともに、日本の臨床研究に対する国際的な評価と信用を傷つける問題といえよう。
 慈恵医大の調査委員会に対して、研究責任者や医師の多くが「自分たちにはデータ解析の知識も能力もない」と語ったという。無責任極まりない話である。
 関係者によると、同大の研究チームは臨床研究が分かる統計の専門家がなかなか見つからなかったことからノ社に相談し、後に京都府立医大の研究にも関与した同社の元社員を紹介されたという。
 こうした状況は、他の大学などでも大同小異ではないか。研究者個人のモラル低下とともに、研究態勢の脆弱(ぜいじゃく)さが一連の問題を引き起こす温床になった側面も見逃せない。同様の過ちを繰り返さないためにも、臨床研究に必要な人材の養成は不可欠である。
 とりわけ、研究を支援する統計学や法律の専門家などの育成は急務だろう。
 この降圧剤をめぐる論文では、ノ社も第三者による調査結果を発表している。元社員が統計解析のほか、研究方法の検討や論文執筆などに幅広く関与していたことは認定したが、元社員による意図的なデータ操作や改ざんについては「あったとは断定できなかった」とした。
 同じ薬で元社員が関与した研究は千葉大など3大学でも行われている。当事者による調査には限界もあるが、関係機関が連携し真相究明に尽くすべきである。
 事態を重く見た厚生労働省は検討委員会を設置して実態調査に取り組み、臨床研究の不正防止策を策定する方針という。徹底的な調査に基づいて実効性のある対策を早急に講じるべきだ。
 それにしても、大学の研究や論文をめぐる不祥事や事件が後を絶たない。
 東京大分子細胞生物学研究所の元教授らが発表した論文に多数の改ざんや捏造(ねつぞう)が判明し、43本について「撤回が妥当」と同大が指摘した。また、架空の研究費名目で約2180万円をだまし取ったとして、東大教授が詐欺容疑で東京地検に逮捕される事件も起きた。
 いかに科学が進歩しようとも、学者・研究者として厳正に守るべき倫理があるはずだ。大学の研究費などが国の補助金などの形で賄われている以上、公金意識が欠かせないことは言うまでもない。
=2013/08/07付 西日本新聞朝刊=


0 件のコメント:

コメントを投稿